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エリスマン邸殺人事件簿 全12話

第7話 「クラースネ・シャーコチカ」




1月31日(日)10時13分


その日の朝、ロサクワ・ズシーカは遅い朝食を摂っていた。

ウクライナから夫と共にここ横浜の土地に来て27年。今では生まれ育ったオデッサより、日本の生活の方が長くなってしまった。

住んでいたウクライナのオデッサ市は黒海に面していて、温暖な気候と美しい海岸により屈指のリゾート地となっている。

オデッサと横浜とは友好姉妹都市になっていて、オデッサとの交流を深めるため、横浜市民による「横浜オデッサ友好委員会」が発足されたりと、さまざまな繫がりをもっている。

ロサクワ・ズシーカも夫と共にこの27年間オデッサと横浜の橋渡しをして来た。

二人は、オデッサ・オペラバレエ劇場横浜公演・国立オデッサ人形劇団横浜公演等、芸術を通しての交流や、横浜市代表団がオデッサ市政200周年記念式典参加の時も尽力を注いだ。





「あなた、どうしても今日伺わなければいけません?」

「ああ 急で悪いがお願いしたい。 彼の奥さんのたっての希望なんだ。 でも演奏会に出られなくなってしまうが・・・」

「残念だけれどしようがないわね。滅多に私にお願いしないあなたの頼みですものね。それに、あの方にお会いするのも随分久しぶりですし」

「ありがとう。助かるよ」
いつも穏やかで、面倒見のよい妻に助けられている自分は、本当に幸せな男だと思いながら妻のほうを見た。



「でも、皆さんに食べていただくこのお菓子は届けさせて下さらない?演奏会はそこのエリスマン邸ですので、すぐ戻れますから」
そう言って、クラースネ・シャーコチカの入った箱を見た。


「演奏会に来た人たちは、きっとあのお菓子を食べたら喜ぶだろうね。 絶品だからな、君の作ったクラースネ・シャーコチカは」
そう言って目を細めた。

「そうね、喜んで下さると嬉しいわ」

「別名、皆が笑顔になれるお菓子」

「ふふふっ 確かにあなたは、このお菓子の前ではいつも笑顔よね」

「子供の頃、秋になると沢山のドライフルーツにお酒をたっぷり入れて漬けた瓶が、棚にずらりと並ぶ様子を思い出すよ。あれは幸せの光景だったな。今でも君がクラースネ・シャーコチカの為に・・・」

「ふふふっ良く分かっていますわ」
夫の言葉を遮るように言った。

「今でもこの季節になると、棚に並んだ瓶の前であなたがニコニコしている姿を見ていますもの」
「こう言うのを日本では、三つ子の魂百までというのよね」

「いやいや、百を過ぎても瓶の前でニコニコするのは変わらないよ 」
と自慢の髭をつまみながら言った。

「まっ あなたったら ほほほほほっ」



穏やかな朝のひと時、ロサクワ・ズシーカは自分が作ったクラースネ・シャーコチカを食べて、皆が幸せな笑顔になってくれたらいいなと思いながら、出かける準備を始めた。


続く

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写真上は、クラースネ・シャーコチカ。ロシアのフルーツケーキ。子供用には焼いたままのものを。大人用にはたっぷりのお酒を振りかけ保存し、(最低でも二週間)封を開けた時の香り高いケーキのおいしさを楽しむ。





















ttps://retrip.jp/articles/3056/
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by komaoyo | 2015-03-11 08:33 | 読み物 | Comments(0)

※軽快な音楽と共にお届けする第7話の続き。 お好きな音量でサティを聴きながらお読み下さい。



エリスマン邸殺人事件簿 全12話

第6話 「 習うより慣れる 」続き



「待ってってば 待ってー 」

伊勢谷仁を追いかけ廊下に出た。

そのとたん、
「あっまたかっ・・・」
「 すっすみません! この先に洗面所があるので・・」
と言い終わるか終わらないうちに右手で廊下の先を指し、スッと消えてしまった。


「待って 待ちなさいよーーっ」

たった今彼が消えた場所に行き、両手を振り回しぐるぐる回る。



いない。

彼は消えた。


人間は、知らないものに不安や怖さを覚える。

伊勢谷仁の場合、この世のものではない事を既に私は知っている。目の前で突然消えてしまっても不思議じゃない。だってこの世のものじゃないんだもの。


半信半疑でも、事実は事実だ。

ずるい。

「どこに逃げたのよーーっずるいじゃないのーーっ説明はどうしたのよぉーーーーっ」

人気のない廊下で叫んだ。

「この世のものじゃないと、いい加減さも度を超えるわね。目の前で消えるなんて全く。誠実そうな言葉遣いをしといて、ふん 逃げる?上等じゃないの、今度現れたら容赦しないから」

「ムカつく」
「なにが お顔が凄いことになっているだ なにが 洗面所をご案内だ 」


「おい幽霊 出てこい おい お化け出てこい」


興奮して文句を言っていると、伊勢谷仁の指さした方でガタンという音がした。

「何?何の音?」
「伊勢谷?」
「そこにいるのね。伊勢谷仁」

ドカドカと大股で歩きながら音のした部屋の前に行き、勢いよくドアを開けた。

「ふざけないでよ、あんた歩いて案内しなさいよぉ」




「わっ」


どこかで会ったような、見覚えのある大きな男が驚きながら振り返った。




奇妙な出来事がまた始まった。




たのむよーーーぉ T=T




伊勢谷仁 何処行ったぁ













続く
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by komaoyo | 2015-03-10 10:10 | 読み物 | Comments(0)

エリスマン邸殺人事件簿 全12話

第6話 「 習うより慣れる 」




「幽霊ではありませんが、この世のものでも有りません」確かにそう言った。



「幽霊じゃなくてこの世のものじゃなかったら、なんなのよ一体、え?おーおーっ」
まるで町のチンピラみたいな態度で言う私。

※町のチンピラ= 今ではあまり見かけませんね。町のキンピラと間違えないように。



「私は、伊勢谷 仁(いせや じん) と申します」

この世のものじゃなくても名前があるんだ・・・。


「こちらに幼いころからずっとお世話になっております」

こちらってどちら?


そんなことより、幽霊じゃなかったら・・・お化け?そこハッキリしようよ

「はははっお化けでもないですよ。」
「自分でもよくわかりませんが、幽霊でもお化けでも無いと思います」

こいつ私の心の声がわかるの?


「はい 多少は」



「げっ」




「あのーそれより ちょっとすみません」

「えっ」

「あの 驚かせてしまって、こんなこと言うのもなんですが、顔・・・」

「はっ?」

「だいぶ あの・・・凄いことになってらっしゃいます」
「洗面所にご案内しますので」
と、ドアのほうに向かった。


「こちらにおいでください」


「はあ?」

「ちょっとちょっと 幽霊問題まだ解決してないわよ」
「私の顔より 幽霊問題が大事なんじゃない?」


ニコニコしながら 伊勢谷仁は
「ちゃんとお話いたしますから、その前にお顔を」
と言いながら、廊下に出て行ってしまった。

「ちょっと ちょっとぉ~待って 待ってよぉ」

慌てて私も廊下に出た。



さっきまでの戦闘態勢はどこえやら・・・。「近寄らないで」と絶叫していたのに・・・。反対に「待って~」と追いかけるこの変わりよう。




臨機応変










続く



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by komaoyo | 2015-03-02 09:59 | 読み物 | Comments(0)